低学歴・低収入ほど喫煙者が多く、受動喫煙被害もまた……タバコの「格差問題」

 かなり前、収入による受動喫煙の記事を紹介しましたが――

 →貧困・低学歴も受動喫煙に関係……? ’19年6月

 さらに裏付けるような、最新の調査と、それをもとにした論説が出ました。
 近年、良い記事を書かれて、当サイトでも引用させてもらっている窪田順生(まさき)氏の執筆です。(→末尾に過去の関連記事リンクを記載。)
 ここでは受動喫煙の問題を中心に引用します。

 低学歴・低収入ほどたばこで病気に?喫煙が「格差問題」と化した理由
  =『DIAMONDO online(ダイヤモンド・オンライン)』窪田順生:ノンフィクションライター2023.3.9 4:20=

 以下抜粋、「……」は文省略・太字化は引用者によります。

“米国の成人の半数以上が全たばこ製品の販売禁止賛成している……感染拡大でバタバタと人が亡くなっていた時も、「マスクをするもしないも個人の問題だろ」とオレ流を貫く人も多かった「自由と自己責任の国」で、なぜここまで明確なタバコ排除の声が盛り上がっているのか”

“医学的根拠もさることながら……「貧しい人の健康を損わせて、さらに貧しくさせてしまう」という「格差拡大」の恐れがあるからだ”

“アメリカのタバコ市場の約3分の1を占めている「メンソールたばこ」は、アフリカ系アメリカ人や低所得者層の喫煙率が非常に高い。これは「たまたまこの層にハマった」からではない。あえてターゲットにされているのだ。
「たばこ製品、特にメンソールたばこについては、若者や人種的・民族的少数者、低所得層、性的少数者に向けて偏った宣伝が行われていることが、研究で示されている」(CNN.co.jp 23年2月3日)”

“「メンソールたばこ」は多くの国で禁止されていることからもわかるように、一度吸ってしまうと、なかなかやめられないという高い中毒性がある”

“国民皆保険制度がないので、低所得者層が体を壊せば治療費でより貧しくなる。そして、そのような貧しい家庭の子どもが「かっこいい」とメンソールたばこに手を出して再び貧困へ…という感じで「貧困の連鎖」も……たばこ排除の動きが盛り上がっているのは、健康うんぬんもさることながら「格差問題」なのだ”

 そして、日本はどうなるのか、に言及します。

“「ま、日本はアメリカほどひどい格差はないから、今のところそんな“反たばこ”の世論にはならないだろ」とホッと胸をなで下ろす喫煙者も多いだろうが……我が国でも遅かれ早かれ「貧しい人ほどたばこで健康を損ねる傾向があるので、格差をなくすためにたばこを規制せよ」という世論が盛り上がっていく可能性が高い”

“東北大学大学院歯学研究科の竹内研時准教授らのグループによる研究……この研究には注目すべき点がもうひとつある。それは加熱式たばこ受動喫煙にさらされるリスクに「学歴」が関係しているということを明らかにした点だ。竹内准教授が言う。
「対象者を、中学・高校卒業者と、専門学校・短大・高専卒と、大学・大学院卒という3つのタイプの教育歴に分けて集計したところ、教育歴が短いグループ(中学/高校卒)は、教育歴の長いグループ(大学/大学院卒)に比べて、加熱式たばこによる受動喫煙への曝露リスクが約60%高いことが明らかになりました」”

“「以前から国内外のさまざまな研究で、教育歴が短い人ほど、紙巻きたばこの受動喫煙にさらされる割合が高いということがわかっています。そこで、加熱式たばこにも同じ傾向があるのか調べてみようと思ったんですが、そこである興味深いことがわかりました」(竹内准教授)”

“調査を開始した17年時点では、低学歴の受動喫煙曝露割合は5.4%で、高学歴は3.8%とそこまで大きな開きはない。しかし、翌年になると急に差が大きく開いた……
「加熱式たばこは……販売が16年に始まったため、17年の段階では……吸うためのデバイスを購入する費用が余分にかかることから、教育歴が長く比較的金銭的に余裕のある人も先んじて購入し、いろんな場所で吸っていた可能性があります。その後、デバイスも求めやすい価格になって認知も広がったことで、徐々に教育歴の短い人のユーザーも増え、紙巻きたばこと同じ傾向におさまっていったと考えられます。つまり、これが喫煙というものに共通する特徴ではないでしょうか」(前出・竹内准教授)”

 なぜ学歴の低い人が被害に遭いやすいのか。

“ なぜ低学歴の人ほど受動喫煙にさらされるリスクが高いのか。
「考えられる理由のひとつは労働環境の問題です。例えば、中学・高校卒の方は体力仕事や作業系の仕事に就くことが多く、そういう職場では受動喫煙防止対策がまだ定着していないケースも多いと考えられます。そのような職場で周囲が紙巻きたばこや加熱式たばこを吸っていた場合、学校を出たばかりの新社会人がたばこの煙を理由にその場を離れたり、自分の近くで吸わないようお願いすることは困難ではないでしょうか」(前出・竹内准教授)”

“厚生労働省が習慣的に喫煙している人の割合を調べたのだが、19年度に喫煙している男性の割合を世帯年収別に見てみると、年収600万円以上が27.3%、年収400万円以上、600万円未満で29.4%、年収200万円未満では34.3%だった。年収が低くなるにつれて喫煙率が高くなっており、ワーキングプア男性の3人に1人はスモーカーなのだ”

“ 低学歴の場合、どうしても低年収の職場で働くケースが多いことは否めない。低年収となると肉体労働や作業系の職場も多く、上司・先輩・同僚は喫煙者が多いという傾向があるので当然、受動喫煙リスクも高まりがちになってしまう”

 「格差」が生じる過程は。

“ このような話を聞くと、……「……オレの知っているヘビースモーカーは年収3000万だぞ」みたいに反論をしたくなる人もいるだろう……が、そんな個別の話はどうでもいい。
 筆者が懸念しているのは、貧しい人がたばこをスパスパ吸うことや、たばこを吸わない貧しい人が受動喫煙にさらされる傾向があるという事実によって、日本の格差がさらに広がってしまうことだ

“喫煙はがんやCOPD……など病気を引き起こす……病気になれば当然、これまでのように働くことができなくなるので、収入はさらに少なくなってしまう”

“病気にならずとも貧しさに拍車がかかってしまう……キャリアアップが難しいからだ……今、上場企業では喫煙がビジネスシーンでマイナスに働くということで続々と、社員に業務時間中の禁煙だけではなく、喫煙後45分間は職場に戻らないことまで推奨している”

“自由の国アメリカでさえ排除論が高まっているように、これは世界的な潮流なので、もはやこの包囲網が緩くなるということはない。厳しくなっていく一方だ”

“1時間おきに喫煙所に行ってスパスパやりながら仕事をするというワーキングスタイルに慣れている人は、これからかなり働ける場所が限定されていく”

“ このような問題が深刻になっていけば、アメリカのような「貧困の連鎖」も増えていくだろう。低収入の喫煙者の家庭の子どもは幼い頃から受動喫煙にさらされているので健康を損ねやすい。また、家族の影響で自身も早い年齢から喫煙を開始する可能性も高い。つまり、「喫煙と貧困の連鎖」が続いていく”

“日本も今のアメリカのように「たばこ製品販売禁止」に賛成する世論が盛り上がっていくかもしれない”

“ 今の受動喫煙防止対策は「ザル」なので、小さな会社では職場でまだスパスパ喫煙している人もいるし、飲食店も個人経営などでは、まだ普通に吸える。こういう会社や店は「そんなにタバコの煙が嫌なら来なきゃいい」みたいなことを言うが、低学歴・低収入の人や若者、女性などの弱い立場の人は「嫌なら断る」なんてできない”

“「タバコの煙なんて吸いたくねえよ」と思いながらも……調子を合わせている。貧しくなればなるほど、生きていくために、自分の心を殺して誰かが吐いた煙を平気な顔をして吸い続けて、心身が不調になっているのだ”

 では、その対策は。

“「このような格差問題の対策をしていこうと考えた時にまず必要なのが“見える化”です。教育歴が短い人ほど受動喫煙リスクが高いという実態がわかれば、どういった人たちを守るための環境整備や注意喚起が必要なのかが見えてきます。今回の研究は、喫煙率を下げていく施策を考える上でも参考になると思います」(前出・竹内准教授)”

“ 今、多くの大企業では職場の禁煙は常識になりつつある……しかし、日本の全企業数の中で大企業が占める割合はわずか0.3%に過ぎない。ワーキングプアの3人に1人は喫煙者で、低学歴の人ほど受動喫煙にさらされている。日本人の「健康格差」は静かに、だが確実に進行しているのだ”

“ たばこの問題は「国民の健康」として語られることが多いが、そろそろアメリカのように「格差」の問題として考える時がきているのかもしれない”

写真の場所は職安の敷地内。求職者(たぶん)が喫煙していました。

[当サイト関連既報] ※他にもありますので、検索窓で引いてみてください。
 (窪田記者の記事)
 受動喫煙や迷惑が発生しようとかまわない人の心理 ~ “開き直り喫煙者” ’20年4月

 “新型コロナに喫煙者が感染しにくい?” 珍説の検証記事(感染と「喫煙」問題その9) ’20年4月

 加熱式タバコの「大誤解」を暴く 周囲への受動喫煙、健康被害は紙巻タバコ同様に  ’22年10月
 「日本が問われる人権意識」子どもへの受動喫煙は「虐待」、法制化は近い ’22年12月

 喫煙者が与える損害は、受動喫煙・三次喫煙に加え、さらに…! ~ 実例をあげた論説 ’23年2月

 (その他の関連記事)
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