なぜ「改正法」は当初より後退したのか? 厚労省元担当者が内幕を暴露

 “当初案より大幅に変更、骨抜きに” などと言われながらも昨年成立した「改正健康増進法」。
 当時よく名前を聞いた、担当者への興味深いインタビュー記事がありました。
 受動喫煙に関して多くの良い記事を発表している岩永直子記者によるものです。

 受動喫煙被害、国の対策で大丈夫ですか? 厚生労働省の元担当官に聞く紆余曲折の内幕
  =『BuzzFeed』2019/07/24 17:01=

 以下抜粋、「……」は文省略・太字化は引用者によるものもあります。

“……課長を2018年8月まで務め、受動喫煙対策を強化する改正健康増進法を成立させ……正林督章(とくあき)さんに今だから話せることを伺いました”

“――正林さんは2002年の「健康増進法」の成立にも関わられていますから、かなり思い入れのある法律だと思います。……当初案30平方メートル以下の飲食店のみ喫煙可能とする例外措置を認めますが、厳しい案でした。しかしその後……100平方メートル以下と緩く変更されました。なぜ、自民党案に屈する形になったのですか?

国会なので国会議員が了承しないと法案は通りません。通らない法案に固執して、何も得られないのが果たしていいことなのか、考えなくてはなりません”

“最初に議論していたのは、面積基準も設けず全ての飲食店を屋内禁煙にする案でした……2016年10月に厚労省のたたき台という形でまず出しました。
……自民党の厚労部会で何回か議論してもらったのですが、全く埒が明かなかった例外がほとんどない案でまず公表したが、それではどうにもならないから塩崎大臣が考えたのが30平方メートル以下を例外とする案です。
「ママさんが一人でやっているような30平方メートル程度のバー、スナックだったら、お客も固定客だし、元々たばこを吸いに来ているような客だから、禁煙にするのも厳しすぎるだろう」という判断でした。
……それでも全く立ち行かなくて、とにかく先生方に説明して回れということでぐるぐる回りましたが、みなさん「この程度じゃダメだ」という反応でした”

“……一番影響を心配したのは飲食店です。議員の先生方が休みに地元に帰ると、地元の飲食店の組合などが、先生方を訪ねて行って、「この法案だけはやめてくれ」と陳情していましたから。それが一番影響力があったのでしょうね”

“外国と比較して日本社会はたばこに寛容なところがあるかなとなんとなく感じることがあります……
「吸いたい人は吸ったらいいじゃん」という空気がありますし、隣の席で吸われても、そこまで気にする人は少ない印象です”

――結局、30平方メートル案に反対は続き、自民党が提示した客室面積100平方メートル以下の妥協案と塩崎大臣側との調整は難航して2017年の国会提案は断念されました。あの時、厚労省内部でも激しい議論になっていたのですか?

……あのままの案では立ち行かないのは事実でしたから。塩崎大臣としては、「自分としてはどうしてもこの案で行きたい」という思いは強かったと思います。
……2017年5月の自民党厚生労働部会だと思いますが、冒頭、塩崎大臣が自分の案の正当性をずっと演説したのですが、色々意見が飛び交って、まとまる雰囲気ではなかった。どうにもならなかった。
(続く)”

 「続編」も興味深いお話が展開しています。

 一歩引いても後退はさせない 受動喫煙対策、ちゃんと前に進んでいくように仕掛けた仕組み
  =『BuzzFeed』2019/07/25 11:00=

強硬に反対を続けた自民党案と折り合いがつかず、一度は国会提案を断念した改正健康増進法を、どうやって復活し、成立までこぎつけたのでしょうか?
妥協を重ねて、骨抜きにされたように見える改正法ですが、その中には、着実に受動喫煙対策が進むような仕掛けをあちこち仕込んだと言います”

“次の加藤勝信大臣と様々な対策を考えたんです。ある程度議員の先生方の意向を踏まえないと国会で法案を可決頂けない、しかしながら確実に前進できる対策としなければいけない。
喫煙可能とした場合は20歳未満は立ち入り禁止にするとか、例外的に経過措置で喫煙とするのは既存のお店だけという規制を提案しました。新規店舗はルール通りやってもらうという仕組みを導入したわけです”

“日本の飲食店はだいたい、2年ごとに2割弱入れ替わっているんです。
2割弱変わっていって、そこが禁煙か喫煙専用室がないとだめとすれば、お店が入れ替わっていくうちに禁煙店が増えます。それならちゃんと前に進んでいくからいいじゃないかと”

――加藤大臣は、塩崎大臣よりも引き気味のように見えていましたね。
いえ、たばこから国民の健康を守らなければという思いは同じぐらい強かったです。だけど、このまま法律ができなかったら最悪だとも思っていました。それは、事務方もみんな同じ認識で、「最初で最後のチャンスだな」という決意がありました”

――当初案を知る者からすると骨抜きではないかと当時取材したら、「飲食店は2年で2割、5年で3割ぐらい入れ替わるから、必ず前進する」と、正林さんが説明されていました。

……およそ20年前に健康増進法を作った時に、……義務規定で提案したら、絶対通らないなと思ったので、努力義務規定で出したわけです。……やはり、実効性がないという批判もありました。
ところが、通ったらどうなったかというと、2003年に施行したら、世の中一変したんですよ……施行されてから、世の中が一気に禁煙モードに変わりました。
どこもかしこも、「健康増進法に基づき館内は禁煙です」という張り紙や立て看板を掲げて、世の中が一気に変わったという成功体験があります。
ですから、厳しい規制にこだわって法案出せないで泣き寝入りするよりは、一歩引きながら、だけどちゃんと前に進むということが可能だと思いました”

 この記事は続くとなっていますが、次の回は別のテーマでした。受動喫煙についてまた良い論説がありましたら紹介いたします。

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