受動喫煙の規制は「私権制限」には当たらない “タバコの税が上がるのは…?” ~ 教授・数量政策学者の論説
よい論説が出ました。
この題をみて、タバコの税の是非や“喫煙者は肩身が狭い”論なのかと思ってしまいましたが、読むとそうではなく、国の方針や、後半では受動喫煙の問題を的確にとらえており、敬服しました。 ※その後、題や本文の一部が変わったようです。以下は初公開時の引用です。
たばこ税はなぜ上がり続ける?喫煙者が不利になっていく厳しい現状
=髙橋洋一氏『bizSPA!フレッシュ』2022.08.10=
以下抜粋、「……」は文省略・太字化は引用者によります。
“ 嘉悦大学ビジネス創造学部教授・髙橋洋一氏が、新刊『財務省、偽りの代償 国家財政は破綻しない』より、得意の理詰めの論法で財務省の主張を論破する(以下、同書より)”
“ 日本たばこ産業(JT)のホームページを見ると、たばこは税負担が重い商品……国たばこ税、地方たばこ税、たばこ特別税、消費税の4種類もの税金が含まれている……一般的な紙巻たばこでは、税負担率は6割に……ビールやウイスキー、ガソリンや灯油などと比較しても、日本で最も税負担率の重い商品の一つとなっている”
“たばこ税の推移を見ると、少なくとも1998年度以降2020年度まで、2018年度を除いて税収は2兆円を超える水準で維持されている”
“ 見方を変えれば、2兆円を下回らないように税率が調整されているともいえる。習慣性、中毒性があるものについては、社会のムードを読みながらどんどん税金を課していく。それでも愛煙家は吸うことを止めないだろうという算段だ”
“ たばこを止めたら、それはそれで健康によくなる。社会保障費は1990年度に11兆6000億円だったが、2021年度には35兆8000億円になっている。財務省としては、この社会保障費を削りたい。だから国としては、たばこを吸おうが止めようがどちらに転んでもオーケーなのだ”
“それでたばこの税金がどんどん上がっている。そういう仕組みだ”
よく指摘される、「タバコの税収より、医療費や火災や吸い殻の被害や喫煙場所整備などの費用のほうがはるかに大きい」という矛盾に対して、国側の考えを暴いています。タバコが売れれば税収があるし、売れなくなったらなったで、それらの損失がなくなるので、国としてはどっちでもよい、ということです。この視点は初めて知りました。
そして、“喫煙者に厳しい社会になった”という世間の俗論に対しての答え、また受動喫煙の規制が正当である論理が続きます。
“税金を取られるのが悔しいなら、みんなが一斉にタバコを止めれば、それ以上は税金が上がらなくなるだろう。でもそれは無理だ……吸わないという行為を若いころにできなければ、歳を取ってもなかなか止められない”
“ 喫煙者を取り巻く環境はどんどん厳しくなっているが、「外でたばこを吸うな」と指示するのは私権制限には当たらない。「外部性」という観点で見れば、交通違反と同じだからだ”
“喫煙者が煙を自分で吸い込んでくれれば問題ないが、外に広げてしまうとほかの人にとって害悪となる”
“ これを外部性という。ある経済主体の意思決定(行為・経済活動)がほかの経済主体の意思決定に影響を及ぼすことを、経済学ではそう表現する……工場による空気汚染や旅客機の騒音などもこれに当てはまる。たばこも受動喫煙で他人を巻き込み害悪を与えるから制限できるという理屈になるわけだ。道路でスピード違反を取り締まるのと同じレベルの話だ”
“ 多くの人々の全てを私権制限するわけではなく、ごく一部の人が対象だから、公共の福祉という名目でたばこを吸う場所を制限できる”
『コトバンク』より→私権制限
『ウィキペディア』より→外部性
そのとおり、ごく一部の喫煙者が、多くの罪のない人たちに、受動喫煙や、火災、ゴミ問題、本人の労働力の低下など、社会に悪影響を与えているわけですから、制限されるのは正当なことなのです。
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