単なるサボリの喫煙室、廃止・社内完全禁煙化は正当 = 社労士「“労働条件の不利益変更”に当たらない」
前々から問題になっている、仕事中の“喫煙サボリ”と、戻ってきての三次喫煙。まだあるのですね。
事例をドラマ仕立てで紹介、最後に社労士が解説しています。長くてたいへんというかたは、以下の私によるダイジェストで読んでください。(「……」は文省略・太字化は引用者によります。)
明らかにサボリ、同僚に煙被害を与えてまで、間違った権利を主張する思考にはまったくもって腹が立ちますが、まだ喫煙所がある職場では、このように言って改善してください。
「たばこ部屋の廃止は不利益変更だ!」社内禁煙を強制するのは可能か
=『DIAMONDO online』2021.6.22 4:10=
“1日2回、決まった時刻にたばこ部屋に行き、30分帰ってこない係長。周りの社員が困っている様子を見た課長は管理職会議にかけ、社内禁煙・たばこ部屋廃止の新ルールが決まったが、それを聞いた愛煙家の社員たちは「そんなことを独断で決めるのは不利益変更だ」と猛反対。会社は社員に社内禁煙を強制することができるのだろうか?”
“「A係長は毎日午前10時と午後3時になるとたばこ部屋に行き、30分は戻ってきません。おかげで部下の仕事量は増えていて、これは毎日1時間仕事をサボッているのと同じじゃないかと全員から不満が出ているんです。それに私の席はA係長の隣なので、たばこ部屋から戻ってくるといつもたばこ臭くて吐きそうです」”
“話を聞いたB課長は、たばこ部屋から戻ってきたAを見つけると自席に呼び……尋ねた。
……
「たばこを吸うために毎日1時間も部屋を離れるのは、仕事をサボッていることにならないか? ……」
……Aは言い返した。
「サボリなんてとんでもない! たばこ休憩で頭がリフレッシュできて、むしろ仕事がはかどりますよ。それに仲間同士、お互いの仕事に関する情報交換もしています」
……
「……課員の中には仕事中毎日10回ぐらいトイレに立つ人や自席でコーヒーばっかり飲んでいる人がいます。それはいいんですか? 私は基本、トイレは昼休みに1回だけですし、自席ではコーヒーどころか何も飲みません」
「トイレは生理現象だから仕方がないし、コーヒーを自席で飲んでも手を止めない限りは仕事に影響しないと思うけど」
……周りの社員たちは2人のやりとりを固唾をのんで見守り、その様子は「B課長、がんばって!」と言っているようにも見えた”
そこで、課長は会議で問題提起しました。
“……そこで分かったことは、他の部署でも、たばこ部屋のメンバーに対してAの件と同じような苦情が複数あり、それを聞いた管理職が対応に苦慮しているとのことだった”
“ 皆の話を聞いたE社長は、
「サボリの件も問題だが、何より社内環境が原因で社員の健康を損なうようなことがあってはならない。特に受動喫煙に関しては対策が必要だ。そこでこの際、たばこ部屋を廃止して、工場を含む会社の敷地内を全面禁煙としたいが、どうかな?」
と提案し、全員一致で賛成、可決された”
ところが、その決定を聞いた喫煙者らが、法的な言いがかりをつけてきました。
“「ふざけるな!そんなこと、会社が独断で決めていいはずがない! これは労働条件の不利益変更だ。よし、皆でE社長に会い決定を撤回してもらおう!」”
その訴えに対し、社長は、社労士に相談。見解を求めたところ――。
“ E社長の質問を受けたF社労士は、まず企業の権限と労働者が守るべき義務について説明をした。
<企業の権限と労働者の義務について>
(1)企業には、企業内の秩序を維持する権限(企業秩序定立権限)があり、労働者の労働義務の遂行について労務指揮を行い、業務についての命令権を持っている。(2)労働者は、(1)に対して勤務時間中は下記の義務を負う。
○企業の秩序を乱さないように遵守すること(企業秩序遵守義務)。
○労働する場所・労働の内容や遂行方法などについて、企業の指揮に従って労働を誠実に遂行すること(誠実労働義務)。
○労働時間中は職務に専念し、私的な活動を控えること(職務専念義務)。(3)使用者は上記の(1)(2)を根拠として、労働者に対して勤務時間中の喫煙を禁止することは可能だが、その理由には必要性と合理性がなければならない。
”
“「その必要性と合理性とは、具体的にはどんなことですか?」
「では、甲社の場合を例にとって説明してみます」<勤務時間中は禁煙とする必要性と合理性について・甲社の場合>
(1)Aらが業務の途中で離席してたばこ部屋で過ごす間、自身の仕事を中断することになるので、Aらの作業効率が下がる可能性があること。
(2)Aらの離席により、業務負担や休憩時間の長さ(喫煙のための離席は「サボリ」とみなす)等で同じ部署の社員たちから不満感を持たれていること。
(3)Aらが喫煙から戻ってきた際、衣服や呼気に残っているたばこの臭いが他の社員に苦痛を与えていること。
(4)(3)について、甲社は健康増進法および労働安全衛生法の改正により、受動喫煙を防止するための適切な措置を取る旨の努力義務が課されていること。
(5)たばこ部屋を設けることにより、管理の煩雑さなど施設の利用効率の低下を招いていること。”
“「さらに、企業には施設管理権があり、その施設で働く人々の安全に配慮しなければならないので、就業規則で『会社施設内を全面禁煙とする』と定めることは問題ありません」”
“「……『これまで認めていた就業時間中の喫煙を禁止することは、労働条件の不利益変更ではないか?』と意見されました。これはどう解釈すればいいですか?」
「労働条件とは、甲社と労働者の間で締結した就労に関する条件のことを言います。社内での喫煙は、業務に関係のない私的行為であり、労働条件には該当しないので、就業時間中の喫煙禁止は不利益変更には当たらないでしょう」”
“「……たばこ部屋を利用していた社員たちからの反発に対してどう対処したらいいですか?」
<甲社とたばこ部屋利用社員とのトラブルを未然に防ぐための対処法の例>
(1)たばこ部屋を利用していた社員に対して、たばこ部屋を廃止し会社敷地内を禁煙にすることへの必要性や合理性について、該当する法律を示す等、具体的かつ丁寧に説明を行うこと。
(2)会社敷地内全面禁煙措置について、施行する前に猶予期間を設けること。
(3)本人が希望する場合禁煙支援を行うこと(禁煙外来受診に対する医療費の補助、禁煙グッズの提供等)。
(4)違反者に対して欠勤控除や懲戒処分を行う場合は、事前に就業規則に明記しておくとともに社員全員に周知すること。”
“「勤務時間内の禁煙は納得しましたが、たばこ部屋は残してもらい、出勤時間前、昼休み、退社時の利用を認めてください」
と反論し、Aや他のメンバーも一様にうなずいた。しかしE社長は首を横に振った。
「じゃあ、出勤時間前と昼休みにたばこの煙にまみれ、臭いをプンプンさせている君たちに対して、他の社員がどう思うか考えたことある? 事実、『たばこ臭くて吐きそうだ』という苦情が多数、私の耳にも届いているんだよ。受動喫煙の弊害もあるし、会社として対策を取らないわけにはいかないだろう?」
E社長のダメ出しに一同は下を向いた”
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